2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円となり、前年度から56円引き上げられた。各都道府県では秋以降、順次新たな最低賃金が適用されている。
一方、人件費の上昇に耐えられない企業も増えている。東京商工リサーチによれば、2026年度上半期の「人手不足」倒産は240件と上半期として過去最多となり、このうち「人件費高騰」を要因とする倒産は130件。前年同期から75.6%増加した。
財務コンサルティングの株式会社稲田財務(東京都大田区)は、「賃上げそのものを避けることではなく、人件費が上がったあとでも利益とキャッシュを残せる会社になっているかを確認することが重要」と指摘する。
本稿では、人件費上昇が続く局面で、中小企業経営者が確認すべき「3つの数字」を解説する。
【最低賃金、全国平均1,177円】人件費高騰による倒産が約1.7倍—中小企業が今、確認すべき「3つの数字」

中小企業の人件費に、これまで以上の圧力がかかっている。
ひとつは、最低賃金の引き上げだ。
2026年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円となり、前年度から56円引き上げられた。各都道府県では秋以降、順次新しい最低賃金が適用されている。
人手不足や物価上昇が続くなか、最低賃金の対象者だけでなく、既存社員との給与バランスを維持するために、より広い範囲で賃上げを迫られる企業も少なくない。
もうひとつは、人件費上昇に企業の収益力が追いついていないことだ。
東京商工リサーチの調査によれば、2026年度上半期(4〜9月)の「人手不足」を要因とする倒産は240件となり、2013年の調査開始以降、上半期として過去最多を更新した。
そのうち「人件費高騰」を要因とする倒産は130件。前年同期から75.6%増加し、人手不足倒産全体の半数を超えた。
また、こうした倒産の66.2%を資本金1,000万円未満の企業が占めており、規模の小さい企業ほど人件費上昇の影響を受けやすい状況がみてとれる。
「最低賃金や人手不足といった外部環境は、1社の努力だけでは変えられません。だからこそ重要なのは、『賃上げできるか、できないか』ではなく、『人件費が上がったあとでも、自社に利益とキャッシュが残るのか』を事前に数字で確認することです」
株式会社稲田財務の代表・稲田裕はそう話す。
例えば、時給が60円上昇した場合、対象となる従業員が10人、それぞれ1日6時間、月20日勤務すると仮定すれば、
60円 × 6時間 × 20日 × 10人 × 12カ月
となり、年間では約86万円の人件費増加となる。
さらに社会保険料などの事業主負担や、最低賃金対象者以外の賃金調整まで考えれば、実際の負担はさらに大きくなる可能性がある。
「時給が何円上がるか、というニュースを見るだけでは不十分です。自社では年間いくらコストが増えるのか。その増加分をどこで吸収するのかまで数字にする必要があります」(稲田代表)
稲田財務では、人件費上昇局面で経営者が確認すべき数字を、次の3つに整理している。
1.人件費は、粗利をどれだけ使っているか——労働分配率
最初に確認したいのが、人件費が粗利(売上総利益)のどれくらいを占めているかだ。
人件費が高いこと自体が問題なのではない。重要なのは、自社が生み出している粗利に対して、人件費の負担がどの程度になっているかを見ることだ(労働分配率は本来、付加価値に対する比率だが、中小企業では付加価値の近似として粗利で捉えると分かりやすい)。
労働分配率がすでに高い会社では、同じ売上・同じ粗利のまま人件費だけが上昇すると、利益が急速に圧迫される。
まずは、自社が生み出した粗利のうち、どれだけを人件費として使っているのかを確認する必要がある。
2.人件費増加分を、粗利で吸収できるか——価格転嫁と粗利率
次に見るべきなのは、人件費の増加分をどこで吸収するのかだ。
販売価格を上げるのか。仕入れや外注費を見直すのか。生産性を高めるのか。販売数量を増やすのか。
売上が前年と同じでも、人件費だけが増加すれば利益は減少する。
そのため、単に「売上が増えているか」を見るのではなく、人件費上昇後も必要な粗利を確保できる価格や収益構造になっているかを確認することが重要になる。
価格転嫁が必要であれば、「いくら値上げすれば人件費増加分を吸収できるのか」まで数字に落とし込む。
3.人件費が増えたあと、いくら利益とキャッシュが残るか
最後に確認したいのが、人件費増加後の利益と資金繰りだ。
ここで見るのは、最低賃金分だけではない。先の試算では最低賃金対象者の増加分が年約86万円だったが、既存社員との賃金バランス調整や社会保険料の事業主負担まで含めれば、人件費の増加はさらに膨らむ。たとえば、年間の人件費が300万円増える会社で、現在の営業利益が400万円しかなければ、他の条件が変わらない限り、利益の大半が消えることになる。
さらに、利益が出ていても、借入金の返済や税金、設備投資などによって現預金が減少する場合もある。
そのため、
「年間で人件費はいくら増えるのか」
「その後、営業利益はいくら残るのか」
「借入返済後にも現預金は残るのか」
まで確認する必要がある。
稲田財務では、最低賃金の引き上げを単なる「人件費の増加」として見るのではなく、
人件費増加額 → 必要な粗利 → 必要な売上・価格 → 最終的に残る利益とキャッシュ
まで、一つの流れとして考える必要があるとしている。
「賃上げそのものが悪いわけではありません。むしろ人材を確保し、社員の生活を守るためにも必要な場面は増えています。ただし、会社が継続できなければ、その賃金を払い続けることもできません」
稲田代表はそう話す。
「最低賃金や人手不足は、自社ではコントロールできません。一方、自社の粗利、人件費、利益、キャッシュは把握できます。まず自社の現在地を数字で確認し、そのうえで価格、人員、生産性、販売方法など、次の打ち手を考えることが重要です」
稲田代表は、こう締めくくる。
「数字を見る目的は、賃上げを避けることではなく、賃上げを続けられる会社をつくることです」
会社概要
株式会社稲田財務(東京都大田区/代表:稲田裕/事業:中小企業向け財務コンサルティング)。
決算書を使わず約3分で自社の財務状態を確認できる無料診断「3分財務チェック」:https://inada-finance-health-check.vercel.app/
会社詳細:https://inadazaimu.jp/
お問い合わせ:info-ifl@inadazaimu.jp
取材のお問い合わせ
本件に関する取材・インタビューを受け付けています。代表・稲田裕への取材、業種・企業規模に応じた人件費上昇の見方について情報提供が可能です(連絡先は上記お問い合わせ先)。
出典
- 2026年度地域別最低賃金:全国加重平均1,177円、前年度比56円引き上げ。厚生労働省「地域別最低賃金」関連資料
- 2026年度上半期「人手不足」倒産240件、うち「人件費高騰」130件・前年同期比75.6%増、資本金1,000万円未満66.2%。東京商工リサーチ「2026年度上半期『人手不足』倒産」2026年10月5日。
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