ライフスタイル

「住まいは一生もの」はもう古い?人生の選択肢を広げる「住宅流動性」の経済学

住まいの常識が変わる?「住宅ロックイン」が人生を縛る

「家は一生もの」という考え方が根強い日本。しかし、この常識が私たちの人生の選択肢を無意識のうちに狭めているとしたらどうでしょうか。PropTech-Labは、最新コラム「住まいを選び直す自由 ー住宅流動性と人生設計の経済学ー」の第5回で、日本の住宅市場の流動性の低さが、仕事や家族、老後の自由を制約する「住宅ロックイン」効果について深く掘り下げています。

住まいを選び直す自由

流動性が人生の自由度を示す指標に

コラムでは、これまでの分析を踏まえ、住宅市場の流動性(住み替えのしやすさ)は、単に不動産市場の動向を示すだけでなく、個人の「人生の自由度」を測る指標として捉え直すべきだと提言されています。仕事を変える、家族の形を変える、老後の生活を選び直す。これら人生の重要な節目における選択が、住まいの流動性によって支えられたり、あるいは制約されたりしているというのです。

住まいを変えるとは、人生を変えることではない。人生を変えるときに、住まいがそれに追いついてこられるかどうかの問題である。住宅流動性の低さは、住宅市場の問題ではない。社会が人生の変化をどれだけ許容するかの問題である。

「家を着替える」という発想

日本では、一度家を購入すれば長く住み続けるのが一般的です。しかし、アメリカやヨーロッパの一部では、服を着替えるように家を買い替える文化が浸透しています。新婚時代は都市部の小さなコンドミニアム、子どもが生まれたら郊外の戸建て、子どもが独立したら都市部のタウンハウス、引退後は温暖な気候の土地へ。人生のステージに合わせて住まいを選び直すこの発想は、単なる消費行動の違いではなく、人生の変化を社会がどれだけ許容し、支えているかの違いを示唆しています。

3つのシナリオで見る「住まいの自由」

コラムでは、35歳独身女性の思考実験を通じて、住まいの流動性が人生に与える影響を具体的に示しています。

  • シナリオA(現実の日本): 賃貸を続けるか、35年ローンでマンションを買うか迷い、結婚や転勤、親の介護、売却時の値下がりリスクなどを考えると決断できず、結局賃貸暮らしが続く。

  • シナarioB(住み替えが軽い世界): ライフプランに合わせて都心1LDKを購入し、結婚後に2LDKへ買い替え、子どもが生まれたら郊外の戸建てへ、独立後は都心に戻る、といった柔軟な住み替えが可能。住まいが人生の伴走者となる。

  • シナリオC(家を「持たない」選択): サブスクリプション型の高品質賃貸を利用し、ライフスタイルに応じて国内外の住まいを月単位で渡り歩く。資産は投資で運用し、所有のリスクを負わない。

現代の日本では、シナリオAしか現実的な選択肢として開かれていないと指摘されています。シナリオBは制度と技術の制約が大きく、シナリオCは社会的インフラがまだ追いついていない状況です。住宅市場の構造が、個人の人生の選択肢を狭めている現状が浮き彫りになります。

仕事・家族・老後を縛る「住宅ロックイン」

住み替えがしにくいことで最も大きく変わるのは、仕事の選び方かもしれません。地方の魅力的な企業からの転職話があっても、住宅ローンや家族の事情、住居選びの不安などから諦めるケースは少なくありません。経済学では、住宅市場の流動性の低さが労働市場の流動性も制約する「住宅ロックイン」効果が近年特に重視されています。

この「住宅ロックイン」が社会にもたらす損失として、以下の点が挙げられています。

  • 労働市場のミスマッチ: 地理的移動の制約により、個人と仕事の最適なマッチングが阻害される。

  • 都市集中の固定化: 地方への人材還流が進まず、東京一極集中が維持される。

  • 機会費用の蓄積: 個人が諦めた選択肢が、社会全体の生産性損失として積み重なる。

  • 家族形成への影響: 結婚、出産、介護といったライフイベントが、住まいの制約によって先送りされたり、諦められたりすることにつながる。

逆に言えば、住み替えが容易になれば、仕事を変える自由が広がり、地方への転職のハードルが下がることで、都市集中の緩和にもつながるでしょう。

PropTech-Labが目指す未来

本コラムは、一橋大学大学院ソーシャルデータサイエンス研究科教授であり、PropTech-Lab所長の清水 千弘氏によるものです。

清水 千弘氏

『PropTech-Lab(プロップテック・ラボ)』は、不動産市場に新たな価値をもたらし、人々が住まいを選ぶ際の新たな基準や簡便さ、価値観を醸成・提供することを目指しています。市場のニーズに応え、価格高騰のスパイラルを抑制し、より多くの人々が質の高い住宅を手に入れられるよう努めています。

PropTech-Labロゴ

この問題についてさらに深く知りたい方は、公式サイトのコラム本編をご確認ください。

【続きはプロパティ・テクノロジーズ 公式サイトで読む】

参考・引用文献

  • Ferreira, F., Gyourko, J., & Tracy, J. (2010, 2012). Housing busts and household mobility. JUE / NY Fed Economic Policy Review.

  • Bernstein, A., & Struyven, D. (2022). Housing lock: Dutch evidence on the impact of negative home equity on household mobility. AEJ: Economic Policy.

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